難関大学の入試で出題される英語が、以前と比べてかなり難しくなっています。実際にデータをみると、保護者世代の入試問題と比較した場合、出題語数は概ね2倍から3倍に増加し、しかも語彙の難易度も上昇する傾向にあります。保護者世代の大学入試対策では、全く歯が立たないほど入試英語が難しくなっていると言えます。高い関心を集める4技能型入試導入の是非とは全く無関係に、実態として入試で出題される英語は着実に難化を続けてきました。

大変に皮肉ではありますが、スピーキング試験の導入が見送られた結果、筆記試験とリスニング試験だけで、英語の運用能力をなるべく幅広く把握しようとする出題傾向に変化してきました。単なる文法問題と言うよりも、多文化での意思疎通能力を問う出題傾向に変わってきています。

以前であれば、付け焼き刃の受験英語対策でなんとかなったかもしれません。しかし現代の大学入試を念頭に準備するためには、本格的な英語運用能力を身につける必要があります。そして、これこそが最良の受験対策なのです。

ここでは共通テストとその前身であるセンター試験、共通一次試験難易度の変化、東京大学、京都大学をはじめとする難関国立大学、医学部の代表格として東京医科歯科大学と慶應義塾大学医学部、難関私立大学の看板学部として慶應義塾大学経済学部と早稲田大学法学部の問題を分析していきます。続いて、検定教科書で用いられる語彙難易度について取り上げます。

共通テスト

平成元年(1989年)は共通一次試験が実施された最後の年でした。翌1990年にセンター試験と名称が変更され、平成31年(2019年)はセンター試験の最終実施年となりました。偶然ではありますが、平成最初の年と最後の年に、国立大学一次試験の方式が改められています。5月の改元を挟み、翌令和2年(2020)年には共通テストとして、再び名称が変更されました。

この30年間、昭和から平成を経て令和に至るまで、共通テストとその前身にあたる試験の英語問題難易度は、どのように変化してきたのでしょうか。ここでは主として、試験時間1分間あたりの処理語数と語彙難易度に焦点を充てて分析していきます。

語数の増加

結論から言うと、語数が増加することで、英語試験は継続的に難化してきました。共通一次試験もセンター試験も、学習指導要領から著しく乖離しないように慎重な出題が行われて来たため、相対的には語彙難易度に大きな変化はありませでした。しかしこうした傾向が今後も継続する保証はありません。また、単純に語数には換算できない、図表を読み取る問題も増加したため、処理しなければならない情報量は語数以上に増加していると考えられます。

筆記試験

筆記試験に限定し、語数の変化を比べると、1分間の処理語数は 73.1 ÷ 27.3 = 2.7 と、1989年から2022年にかけて概ね2.7倍に増加しています(表1)。図2で示すように、共通テストは英検1級や東大2次試験に比べても処理情報量が膨大であり、語彙の難易度は英検2級と準1級の中間程度であり、東大入試と比べても遜色がないことが分かります。2020年センター試験と共通テストを比べると、語彙難易度では大きな変化はなかったものの(表1・図4)、全体として分量が38%も増大したことから、かなり難化したと考えられます。図3から分かるように、分量の増大は共通一次試験の時代からセンター試験リスニング導入までになだらかに起こり、リスニング試験の導入とともに、筆記試験の分量が一気に増大したことが分かります。また、共通テストに名称変更がなされた後も、語彙増大の勢いは止まりそうにありません。

試験(年度) 共通一次試験(1989) センター試験(2020) 共通テスト(2022)
試験時間(分) 100 80 80
CEFR欄外(%) 5.1 6.3 9.4
C2(%) 0.5 0.4 0.3%
C1(%) 0.7 1.3 1.0
B2(%) 4.5 5.2 5.2
B1(%) 8.9 10.4 9.6
A2(%) 13.1 15.8 14.5
A1(%) 67.3 60.6 60.1
総単語数(語) 2,732 4,232 5,850
試験時間1分あたり語数 27.3 53.9 73.1
注:テキスト・インスペクターによる分類

リスニング試験

リスニング試験は、2005年1月から実施され、ICレコーダーを利用した世界初の入学試験として知られることとなりました。

リスニング試験の読み上げ台本の語数は、読み上げ回数を無視して比較すると、2005年から2006年にかけて減少した他は、一貫して増加傾向にあることが分かります。語彙難易度については、当初に大きな変動があった以外には比較的安定していると言えます(図3、表2)。印刷配布部分については、2021年から22年にかけて、語彙の難化が目立ちます(図4、表3)。

試験(年度) センター試験(2020) 共通テスト(2022)
試験時間(分) 30 60
読み上げ時間(分) 30 30
CEFR欄外(%) 14.5 15.6
C2(%) 0.1 0.2
C1(%) 0.6 0.5
B2(%) 2.1 4.0
B1(%) 4.5 5.6
A2(%) 12.1 11.1
A1(%) 66.1 63.0
総単語数(語) 1,388 1,740
試験時間1分あたり語数 46.3 58.0
注:テキスト・インスペクターによる分類

最新の共通テスト J PREP受験カリキュラム 講師陣からのコメント

求められる情報処理用能力

2022年度の共通テスト・英語は、出題傾向・難易度・設問数などにおいて昨年を踏襲しているものの、リーディングの総語数が500語程度増えて約6000 語となるなど、さらに情報処理能力が求められる試験となりました。素材はブログ・雑誌・ポスターなど身近なところから選ばれており、「実生活・実社会におけるリアルなコミュニケーション英語」を問うものと言えるでしょう。音声を活用しながら、プレゼンテーションやディスカッションなどのアウトプットを通して、思考力・判断力・表現力を磨いていくことが必要です。

(J PREP 国内大学受験カリキュラム統括責任者:桂侑司)

多様な情報を解釈する力が必要

This year’s Common Test was as a challenging test. Examinees were expected to read a tremendous range of texts (blogs, articles, websites, pamphlets). In addition, candidates had to deal with subjects from many different fields: biology, sociology, and economics featured heavily. One of the big characteristics of the test this year was the variety of different graphs, charts, pictures, and other visuals. This would have challenged students as they would have had to quickly gather information from several different text types at the same time. Learning to read visuals is something that all students preparing for the Common Test should spend some time practicing.

(J PREP 国内大学受験カリキュラム講師:Tom McCormack)

東京大学

東京大学二次試験 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

試験(年度) 東京大学(1989) 東京大学(2021)
試験時間(分) 120 120
欄外(%) 6.5 8.0
C2(%) 0.5 1.2
C1(%) 1.0 1.6
B2(%) 5.2 7.5
B1(%) 7.7 9.5
A2(%) 12.8 13.0
A1(%) 66.4 59.1
総単語数 1,685 3,008
試験時間1分あたり語数 18.7 33.4
注:テキスト・インスペクターによる分類

東京大学入試で出題される英語の語数は、平成元年から令和3年までの間に、2倍以上に増加しました。なお、ここではリスニング試験での放送回数を無視し、単純に一度読む、一度聴くという前提で全体の語数を比較しています。和文英訳や自由英作文で要求される語数が増えただけでなく、自分で内容を一から構想しなければならないタイプの出題が増えています。

出題語数が増加しただけでなく、目を引くのは単語の難易度が著しく難化したことです。東大入試に出題される語彙は、80年代から90年代初頭にかけて、A1レベルのものが概ね60%台後半を占めていました。これが、60%を切る水準に低下し、逆にB2レベル(英検準1級水準)の比率が増加しています。やはり分量が増えた上に、全般的に語彙も難化しているといえます。

京都大学

京都大学二次試験 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

試験(年度) 京都大学(1989) 京都大学(2021)
試験時間(分) 120 120
CEFR欄外(%) 5.8 7.3
C2(%) 1.2 2.9
C1(%) 1.5 2.9
B2(%) 8.6 6.7
B1(%) 11.6 9.9
A2(%) 10.9 10.3
A1(%) 60.5 60.1
総単語数(語) 689 1,460
試験時間1分あたり語数 5.7 12.2
注:テキスト・インスペクターによる分類

東京医科歯科大学

東京医科歯科大学二次試験 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

試験(年度) 東京医科歯科大学(1989) 東京医科歯科大学(2021)
試験時間(分) 90 90
CEFR欄外(%) 8.5 13.2
C2(%) 1.3 1.4
C1(%) 1.8 1.6
B2(%) 9.3 7.5
B1(%) 8.8 10.9
A2(%) 12.1 10.4
A1(%) 58.3 55.0
総単語数(語) 1,036 2,231
試験時間1分あたり語数 11.5 25.8
注:テキスト・インスペクターによる分類

慶應義塾大学

医学部 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

試験(年度) 慶應義塾大学医学部(1989) 慶應義塾大学医学部(2021)
試験時間(分) 90 90
CEFR欄外(%) 8.6 10.8
C2(%) 1.1 2.2
C1(%) 1.7 2.5
B2(%) 7.6 8.1
B1(%) 10.8 10.9
A2(%) 12.1 11.5
A1(%) 58.1 53.9
総単語数(語) 1,271 3,076
試験時間1分あたり語数 14.1 34.2
注:テキスト・インスペクターによる分類

経済学部 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

試験(年度) 慶應義塾大学経済学部(1989) 慶應義塾大学経済学部(2021)
試験時間(分) 100 120
CEFR欄外(%) 6.9 5.2
C2(%) 0.9 2.5
C1(%) 1.2 2.9
B2(%) 4.8 9.4
B1(%) 7.5 13.0
A2(%) 14.6 14.4
A1(%) 64.1 52.6
総単語数(語) 2,171 3,758
試験時間1分あたり語数 21.7 31.3
注:テキスト・インスペクターによる分類

早稲田大学

法学部 平成元年(1989)vs. 令和3年(2021)

大学入試英語が難化したのは東大だけではありません。量が増え、語彙が難化した大学の代表例としては、早稲田大学があげられます。

試験(年度) 早稲田大学法学部(1989) 早稲田大学法学部(2021)
試験時間(分) 90 90
CEFR欄外(%) 6.0 10.5
C2(%) 1.6 1.0
C1(%) 1.2 1.8
B2(%) 5.6 8.3
B1(%) 8.2 13.0
A2(%) 13.2 12.0
A1(%) 64.3 53.5
総単語数(語) 1,396 4,547
試験時間1分あたり語数 46.3 58.0
注:テキスト・インスペクターによる分類

早稲田大学法学部で出題される総語数は3.3倍にまで増加しています。難易度に大きな変化はありませんが、それでも以前であれば1分間あたり20 語を下回る数の単語を処理できればよかったものが、最近の出題では、60 語に迫っています。

A1水準の単語は、以前は60%台だったものが、ここ数年では55%以下になっています。これは米国大学一般教養課程で後半に用いられる経済学の教科書、 G. Mankiew. Principles of Economics で用いられる語彙と、ほぼ同様の難易度と言えます。早大法学部は、1993年まで日本語混じりの出題だったものが、1994年以降は完全に英語だけの出題となり、傾向も大きく変化したと言えます。