長年にわたり、日本人は中学校と高校で合計6年間も英語を勉強しているにもかかわらず、「英語を話せない」という自己認識に苦しんできました。現在の40代くらいから団塊の世代の人々にとって、英語に対する苦手意識は顕著かもしれません。これは、彼らが英語を学んでいた当時の日本の英語教育や教材が未熟であったため、その世代特有の「学習のクセ」が存在するからです。
しかし、英語学習の環境は過去50年ほどで大きく変化しており、いつからでも英語を習得できます。英語習得の効率を劇的に高める鍵となるのが、「発音トレーニング」であり、その基礎となるのが「フォニックス」です。
フォニックスは、英語の「文字」(綴り字)と「音」の関係性を体系的に学ぶ学習法であり、話す・聞く・読む・書くという英語学習全般の底上げにつながります。
フォニックスとは何か?英語の「発音ルール」を見える化する学習法
アルファベットの音と綴りの関係を体系化
フォニックス(phonics)とは、アルファベットの「文字」と「音」の関係性を学ぶことで、単語レベルでの読み書きの力を育てる学習法です。
英語は、綴り字と発音の関係が複雑な言語として知られています。フォニックスは、この複雑な英語の読み書きのルールを体系化する識字教育であり、学習者が文字の持つ音やつづりから自分で正しく発音・音読ができるようになることを可能にします。
この学習法の基礎は、まずアルファベット26文字の「長い音」(長音、名前読み)と「短い音」(短音、音素読み)を正確に発音できるようにすることから始まります。さらに、「母音で終わる音節は母音を長音で発音する」や「子音で終わる音節は母音を短音で発音する」といった、つづりと音の基本的な規則を体系的に学びます。
英語圏で生まれ日本でも注目される理由
フォニックスは、英語圏の子どもが幼稚園や保育園で、音素認識のトレーニングから始め、読み書きを学ぶための識字教育として活用されています。この教授法は、英語を母国語としない子どもでも、高い読み書き・読解レベルに達するように工夫されています。
かつての日本型英語教育では、「音声の基礎を習得すべき時期に、英語の音声を学ばずに、中学生になってからいきなり文法から導入した」という問題点がありました。その結果、1980年代までに生まれた世代は、英語の音声面での基礎が弱い傾向があります。また、日本語のローマ字表記が浸透してしまったため、英語の識字教育が避けられ、フォニックスの普及を妨げた可能性があります。
しかし、近年では日本の英語教育改革が進み、2020年には小学校3年生から英語アクティビティが導入されるなど、低年齢からの英語学習が重視されています。この背景から、小学校英語でのフォニックス採用が進み、また大人の学び直しにおいても、「脱ローマ字英語」を目指すための基礎知識としてフォニックスが注目されています。
フォニックスで身につく3つの力 – 発音矯正からリスニングまで
フォニックス学習は、英語習得を効率化し、英語運用能力全体を底上げする効果があります。
1:正しい英語発音の習得
発音トレーニングは、英語習得を効率化する上で有意義であり、何歳からでも取り組むべきです。
日本語が5種類の母音と14〜19種類の子音からなり、ほぼすべてが「開音節」であるのに対し、英語には20種類の母音と25種類の子音があり、特に日本語には存在しない「閉音節」(子音だけで終わる音節)を正確に発音する技術が求められます。
フォニックスを通じて英語の音の成り立ちを体系的に理解することで、話す英語が相手に「通じやすく」なります。
2:リスニング力・聞き取りの向上
発音の基礎を固めることは、リスニング力の向上に不可欠です。
英語には曖昧母音を含め20種類の母音があり、この音の違いを理解せずにいると、語彙獲得や文法理解の効率に大きな差が生じます。フォニックスによって音の成り立ちを理解し、母音・子音を使い分ける発想を持つことで、聴き取れる分量が増え、結果としてリスニング力も向上します。
3:綴りを見て初見の単語も読める力
フォニックスの核心は、つづり字のルールから単語を「自分で読む」能力を育成することにあります。
フォニックスの規則性を把握することで、英単語の得体の知れなさが低減し、学習への抵抗感が払拭されます。例えば、「単語の最後に黙字のe(マジックe)を置くことで、直前の母音が長音になる」というルールは、単語の発音を覚える上で非常に役立ちます。
これにより、見たことのない単語であっても、自らの知識を使って声に出して読もうとする姿勢(自力で読む力)が身につきます。
カタカナ英語からの脱却 – 日本人がつまずく発音をフォニックスで克服
カタカナ発音の弊害とその原因
日本人の英語が「通じづらい」原因の一つは、日本語の特性に強く影響されたカタカナ表記にあります。
日本語は、口をあまり動かさなくても話せる言語であり、カタカナ表記では「閉音節」(母音を含まない子音の音)を表現できません。その結果、英語の閉音節の子音をカタカナの音で表記すると、不要な母音(「ウ」や「オ」など)が残ってしまいます。
また、通じづらさの意外な理由として、声の小ささが挙げられています。
日本語を話す際の口の動きの少なさから発声が口先になりやすく、声が小さくなる傾向があり、これに「間違えたら恥ずかしい」という完璧主義のマインドセットが加わることで、さらに通じづらさが増してしまうのです。
フォニックスで「通じる発音」へシフト
通じる発音へシフトするためには、英語の発音の基礎からやり直すことが重要です。
フォニックスは、「脱ローマ字英語」「脱カタカナ英語」を実現するための基礎知識となります。
具体的な練習として、子音を母音を重ねずに発音する練習や、強勢(アクセント)のある音節とない音節のメリハリを意識し、強勢のない音節を弱音化して曖昧母音 /ə/(シュワ)などで発音する練習が重要です。
さらに、発音矯正では、積極的に「吐く息」を強くする「呼吸の訓練」を行うことが、英語を話すときの息遣いのベースとなります。口を大きく動かす英語を話す際は、日本語を話す自分とは異なる「英語を話す別人格」を育てる意識を持つことも、通じる英語を話す上で有効であるとされています。
IPA(国際音声記号)との違いは?フォニックスが初心者に適する理由
発音記号は詳細だが難解、フォニックスは実用重視
発音を学習するツールとしてIPA(国際音声記号)がありますが、発音記号は日常使用しない独特の文字が多く、子どもたちを不安にさせ、英語嫌いを増やす可能性があるという意見もあります。発音記号は音の細部を正確に捉える上で有用であり、中高生や大人が発音の細部を確認するために用いられてきました。
一方、フォニックスは、日常的に使うアルファベットを用いて音を再現する工夫であり、つづりから直接的に発音を把握できるという点で便利で実用重視です。フォニックスは入り口で少し苦労しますが、身につけてしまえばカタカナで英語の音を拾うよりも楽に読めるようになります。
そのため、英語学習の初期段階においては、フォニックスが初心者や子どもの学習に適していると言えます。
J PREPでも、年齢を問わずに基本はフォニックスから
フォニックスは、発音記号で学んだ人にも便利であり、派生語を把握し語彙を増やす上でも役立つため、「子どもはフォニックス、大人は発音記号」という厳密な二分法は不健全だとされています。
学習機関では、応用言語学の知見に基づき、幼い生徒ほど音声を通じて慣れる指導が効果的であるとし、文法知識を活用する練習は学年が進んでから習得していくことが望ましいと考えられています。
J PREP Kids(小学1~4年生)では、フォニックスの基礎から応用までを重点的に指導し、正しい発音と「自分で読む力」の習得を目標としています。小学5年生以降も、Level 1のコース(小学5~中学生)でフォニックス学習を通じ、初心者がつまずく原因となる英語と日本語との音声の違いを理解し、正しい英語の発音を習得します。
経験豊富な英語塾ではどう教える?J PREPにおけるフォニックス活用
読み書きの基礎として徹底指導
小学生英語塾 J PREP Kids や英語学童 J PREP A+ では、フォニックスを読み書きの基礎として徹底的に指導しています。Balanced Literacy Approach(均整識字教育法)を用い、楽しみながら正しい発音と聞く・読む・書く力を同時に習得します。
J PREP Kids の入門コース(ES010など)や基礎コース(ES020)では、日本語母語講師がフォニックスの読み書きを丁寧に指導し、口の開き方、舌の動かし方、呼吸法などを日本語での説明を介することで、生徒が短時間で正確な英語の音を身につけられるよう努めています。ES030、ES040ではフォニックス学習の総まとめを行いながら、文法の基礎を日本語母語講師が指導し始めます。
フォニックス学習は、難易度別に細かくレベル分けされた英書の多読(Leveled Reading)と組み合わされ、読み書き能力が段階的に高められます。また、毎日習った単語を使ってジャーナルを書く指導(Journal Writing)が行われ、語彙力とライティング力の向上につながります。
カリキュラム後半で高度な英語運用能力を確立
J PREPのコア・カリキュラムでも、日本語母語講師が文法、英語母語講師がCLIL(教科言語統合型学習)を担当する「英日ハイブリッド指導」を採用しています。
Level 2(小学生~中学生)からは、パラグラフ・ライティングの基礎を学ぶアカデミック・ライティングの本格的な指導が始まり、添削指導を通じて正しい英文構造の理解を確認します。Level 3(中学生~高校1年生)に進むと、高校中級・上級程度の語彙・構文の理解を目指し、論理的な思考力・表現力を鍛える指導が本格化します。この過程において、初期にフォニックスで築いた音声の基礎力が、高度な英語運用能力を確立する上での基盤となります。
指導現場の声と成功事例
フォニックス学習は、その後の英語学習において大きな成功体験につながっています。
東京大学に進学した卒業生は、小学5年生で英語ゼロからスタートしましたが、フォニックスを一つ一つ丁寧に学んだことが「周りとの差が出た」要因であり、「発音を理論的に覚えられたことは大きな土台になった」と述べています。この基礎力のおかげで、東大レベルの単語帳も「受験勉強の効率が全く違った」と実感しています。
また、キングス・カレッジ・ロンドンに進学した卒業生は、入門コースでのフォニックス練習を「子どもっぽく感じた」ものの、中学2〜3年になると「あの基礎こそが一番大切だと気づいた」と述べています。
指導現場の講師からも、フォニックスを通して読み書きの基礎を固めることで、生徒が「見たことがない単語も自らの知識を使って声に出して読もうとする姿勢」を持つようになったという声が上がっています。
なぜ今フォニックスが注目?日本の英語教育改革とその背景
小学校英語でのフォニックス採用
フォニックスが注目される背景には、日本の英語教育改革があります。
2020年には小学校3年生から英語活動が必須化し、小学校5年生からは英語が正式に教科化されました。応用言語学の知見によれば、小学生は言葉を学ぶ上で音声の感覚に優れていることが示されており、この特性を最大限に生かすカリキュラムとして、フォニックスの導入が推進されています。低年齢で英語を始めることで、頭の中に直接イメージが浮かぶ「英語で考えられる脳」が育まれるという効果が報告されています。
大人の学び直し需要とメディアでの紹介
英語学習の環境は過去50年ほどで大きく変化しており、特に1980年代までに生まれた世代は、大学受験でリスニングがなかった時代(2006年以前)を過ごしたため、音声面での基礎が弱いという課題を抱えています。
大人の学び直しにおいては、発音の基礎を固めることが最初の優先課題とされています。大人が英語を学ぶ際にも、英語圏の子どもが学ぶのと同じ方法で、英語の音声を把握するところから学ぶことが推奨されています。フォニックスは、この世代が抱える「脱ローマ字英語」「脱カタカナ英語」を実現するための基礎知識となります。
フォニックス学習は、英語の音の仕組みを根本から理解し、あなたの英語力を効率的かつ劇的に向上させるための土台となります。正しい発音の基礎を固めることで、相手に伝わる英語が話せるようになり、リスニングや語彙の吸収効率も高まります。フォニックスは、話す、書く、読む、聴くという英語4技能に加えて、論理的に考え、表現する力(5技能)を総合的に習得するための基盤となります。
単に正解を覚えるだけの勉強ではなく、考え抜き、表現することで学ぶ、真に世界に通じる学問を希求する力を養い、将来にわたって活躍するための基盤を築きましょう。
1億人の英語習得法
今回ご紹介した内容について、J PREP代表 斉藤淳が解説した書籍がSBクリエイティブから出版されています。
日本人はなぜ英語ができないのか。それは、「ネイティブが当たり前にやっている英語の学び方」を知らないから。イェール大学元助教授で英語塾を主宰する著者が、日本人の知らない英語習得法を伝授します。
書籍内容
- 受験英語のクセを知る
- 英語と日本語 文字と音の対応関係の違い
- 英単語によって最適な覚え方・教材は異なる
- 試験のための文法と、使うための文法
- 試験対策英語の「構文主義」バイアス
監修:斉藤 淳(さいとう じゅん)
1969年山形県酒田市生まれ。
上智大学外国語学部英語学科卒業(1993年)、イェール大学大学院政治学専攻博士課程修了、Ph.D.取得(2006年)。ウェズリアン大学客員助教授(2006-07年)、フランクリン&マーシャル大学助教授(2007-08年)を経てイェール大学助教授(2008-12年)、高麗大学客員教授(2009-11年)を歴任、2012年4月に帰国、英語塾代表として起業。
2014年に発売された『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』と『10歳から身につく問い、考え、表現する力』がベストセラーとなる。2017年に『世界最高の子ども英語』、2023年に『アメリカの大学生が学んでいる本物の教養』、2024年に『斉藤先生! 小学生からの英語教育、親は一体何をすればよいですか?』を刊行。J PREPでは全体の統括に加え、教材開発、授業、進路指導を担当。
J PREP 斉藤塾 では、2026年度 入塾説明会を開催いたします。【日程公開中】
J PREP 斉藤塾 では、12月23日(火)から冬期講習を開講します。
J PREP A+ では2026年度 入会説明会・体験会を開催しています。
J PREP Kids は2026年度 入塾説明会を開催いたします。【日程公開中】




