
国際化が加速する現代において、子どもたちに「世界のどこにいても通用する英語力」を身につけさせたいと願う保護者の方は少なくないでしょう。しかし、「どうすれば効率的に英語を習得できるのか」「どんな学習方法が子どもに合っているのか」といった疑問や不安を抱えることもあるかもしれません。
英語学習は単に言葉を覚えるだけでなく、異文化を理解し、多様な価値観を持つ人々と対話し、論理的に思考し、自らの意見を表現するための重要な手段です。早期からの英語教育が注目される一方で、子どもの年齢や発達段階に合わせたアプローチが不可欠です。
本記事では、英語を「学習」として捉えるだけでなく、「学問の手段」として、そして「人生を豊かにするツール」として活用できるような、家庭で実践できる英語学習のヒントを3つの章に分けてご紹介します。子どもたちが英語を通して視野を広げ、逞しく活躍するための基盤を形成できるよう、具体的な方法と心構えを深掘りしていきましょう。
幼少期・小学校低学年からの「音」と「楽しさ」を育む英語学習
幼い子どもたちが言語を学ぶ上で特に優れているのは「音声の感覚」です。
この時期は、英語の音に自然に親しみ、楽しみながら「英語の耳」を育むことが何よりも重要です。
オールイングリッシュ環境で「音」に慣れ親しむ
2歳から6歳といった未就学児や小学校低学年の子どもたちにとって、すべての活動を英語で行う「オールイングリッシュ」の環境は、英語を自然な形で吸収するのに非常に効果的です。言語、アート、ダンス、音楽、算数、サイエンスなど、様々な分野を英語で学ぶことで、子どもたちは英語を「教科」としてではなく、「コミュニケーションの道具」として認識し始めます。
家庭での実践
英語の歌や動画、絵本を積極的に取り入れましょう。日常生活の中で「Good morning!」や「Let’s eat!」など簡単な英語のフレーズを繰り返し使うだけでも、子どもは音と意味を結びつけ、英語のリズムに慣れていきます。無理なく、自然に英語が耳に入ってくるような環境作りを意識することが大切です。
フォニックスと音読で「自分で読む力」の基礎を築く
英語学習の基礎となるのは、音と読み書きのスキルです。
特に「フォニックス」は、綴り字と発音の関係性を学ぶ音声学習法であり、英語圏の子どもたちが最初に学ぶ「識字教育」の根幹をなします。フォニックスを学ぶことで、初めて見る単語でも文字から音を推測して発音したり、聞いた音から単語を綴ったりする力が身につきます。
家庭での実践
日本語を母語とする子どもたちがフォニックスを習得する際には、口の開き方や舌の動かし方、呼吸法などを日本語で丁寧に説明することが効果的です。親子で一緒にアルファベットの音を練習したり、簡単な英語の絵本を声に出して読んだりする習慣をつけましょう。音読は、語彙や表現を「筋肉の記憶」に落とし込み、「英語を発する」ことに慣れる上で非常に効果的です。発音練習アプリを活用して、自分の発音を録音し、フィードバックを得ることも役立ちます。
CLIL(教科・言語統合型学習)で知的好奇心を刺激する
CLILとは、外国語学習と教科学習を統合した教授法・学習法です。
英語を使って算数や理科、社会など様々なテーマについて学ぶことで、既に母語で培った知識を外国語で理解・再表現する機会が得られ、知的好奇心が高まります。
CLILは、既に母語で培った知識を外国語で理解・再表現する機会を提供し、英語そのものだけでなく、その周辺知識や関連する英語表現を強化することで、実践的な英語力(「使える英語」)を同時に身につけることを目指しています。これにより、多読などにおいて語彙力が不足していても、周辺情報から英語の内容を推測しやすくなる効果も期待できます。
家庭での実践
子どもが興味を持つ分野(動物、宇宙、歴史など)の英語のドキュメンタリーや絵本を一緒に見てみましょう。内容が難しくても、すでに知っている知識があれば、英語で学ぶことへの抵抗感が少なくなります。これにより、英語力だけでなく、多角的に物事を捉える「教養」も同時に育まれます。
小学校高学年・中学生からの「思考力」と「応用力」を高める英語学習
小学校高学年から中学生にかけては、基礎的な英語の音やリズムに慣れた上で、より論理的な思考力や応用力を養う段階へと移行します。この時期には、文法や語彙を体系的に学び、読み書きのスキルを向上させることが重要です。
文法と語彙を体系的に学び「使う」英語へ
この時期の英語学習では、文法を単なる暗記科目としてではなく、「言葉のモードの切り替え」や「ニュアンスの理解」を助けるものとして捉え直すことが効果的です。また、語彙力は英語力の要であり、効率的な語彙増強には段階的なアプローチが推奨されます。
文法の学習方法
中学英文法の範囲を日本語で丁寧に解説された問題集で学び、知識を定着させましょう。重要なのは、学んだ文法を使って自分で文を作り、声に出して練習することです。助動詞のニュアンスなど、日本語では表現しにくい「現実との距離感」や「時間的な距離感」を理解することが、より自然な英語表現につながります。
語彙の学習方法
英単語は「友だちになる」というイメージで、発音、意味の「芯」、派生語を段階的に理解していくのが効果的です。特に抽象的な単語は「語源」から意味を推測する学習法が役立ちます。絵入りの辞典や、発音練習機能付きのアプリを活用し、単語を多角的に覚えましょう。単語を覚える際には、スペリングよりもまず「正しく発音できること」「意味が分かること」を優先すると、学習のハードルが下がります。
多読と精読で「読解力」と「教養」を深める
「読む力」は、英語のすべての技能の土台となります。多くの英語コンテンツに触れる「多読」で読書の習慣をつけ、時には丁寧に読み込む「精読」で理解を深めることが、総合的な英語力向上に繋がります。
多読の学習方法
子どもの興味に合わせて、知らない単語が5%以下の洋書から始め、徐々に難易度を上げていきましょう。無理なく楽しみながら読み進めることが、量と質の両面で効果を発揮します。子ども向けのファンタジー小説や世界的に人気な児童文学は、自然な英語表現に触れる良い機会です。ノンフィクションであれば、歴史や科学など興味のある分野の児童書から始めてみましょう。
精読の学習方法
内容や文体が気に入った文章は、声に出して音読したり、書き写したりすることで、語彙や表現が記憶に定着しやすくなります。生成AIに文法や語法、文章の背景情報を尋ねながら読むことも、理解を深める助けになります。
論理的思考力を養う「書く・話す」練習
英語で論理的に考え、表現する力は、将来的に社会で活躍するために不可欠なスキルです。
単なる和文英訳に留まらず、自分の意見を英語で構築し、伝える練習を重ねましょう。
ライティングの学習方法
パラグラフ・ライティングの基礎を学び、論理構成を意識して文章を書く練習を始めましょう。書いた文章は、AIツールやオンラインの添削サービスなどを活用してフィードバックを受け、修正を繰り返すことが重要です。
スピーキングの学習方法
積極的に発言する態度を育むことが大切です。間違いを恐れずに意見を表明する「場数を踏む」経験を積ませましょう。家庭内での簡単なディスカッションや、英語の先生との会話練習などを通じて、英語を「話す」ことに慣れることが重要です。ロールプレイングやプレゼンテーションの練習も効果的です。
英語学習をサポートする環境づくりと親の関わり方
子どもたちの英語学習を成功させるためには、保護者の適切なサポートと、主体性を引き出す環境作りが欠かせません。
「好き」を原動力に変えるモチベーション維持
「好きだから理解したい」という内発的な動機は、学習継続の最大の推進力となります。英語学習を義務感ではなく、楽しみながら続けられるよう工夫しましょう。
家庭での実践
子どもが興味を持つ分野の英語コンテンツを一緒に探したり、英語学習を通じて新たな発見や感動を共有したりすることで、学習への意欲を高めることができます。また、英語学習の成果として、駅のアナウンスが聞き取れたり、簡単な英文が読めたりする「ちょっとした成功体験」を積み重ねることで、子どもの自信に繋がります。保護者自身も「楽しむ」姿勢を見せることで、子どもはより積極的に学習に取り組むようになるでしょう。
テクノロジーを賢く活用する
現代は、かつてないほど多様な英語学習ツールが手軽に利用できる時代です。
これらのテクノロジーを効果的に活用することで、学習効率を飛躍的に高めることができます。
YoutubeやNetflixなど、英語字幕付きで視聴できる動画コンテンツはリスニング力の向上に非常に役立ちます。
語彙・文法学習アプリや発音矯正アプリは、家庭での復讐や定着に効果的です。単語帳を眺めるだけでなく、音声と組み合わせて覚え、自分の発音を録音してフィードバックを得ることで、より効率的な学習が可能です。
生成AIは文章の翻訳や文法説明、自由英作文の添削、ブレインストーミング相手として活用できます。
ただし、AIの出力は常に正確とは限らないため、最終的な判断は人間が行うという意識が重要です。
ポジティブなマインドセットと継続の力
「間違えたら恥ずかしい」という完璧主義は、英語学習の大きな足かせとなることがあります。
間違いを恐れず、積極的に英語を使う姿勢を育むことが、成長に繋がります。
「失敗しても大丈夫」という雰囲気作り
子どもが英語を話す際に、多少の発音や文法の誤りがあっても、まずは「伝えようとしていること」を肯定的に受け止め、励ますことが大切です。
「別人格」の意識
英語を話すときは、日本語を話すときよりも口を大きく動かし、表情や身振り手振りも大きくなる「別人格」を演じるような意識を持つと、よりスムーズに発話できるようになります。呼吸の訓練も、英語の発声に必要な「息の強さ」を身につける上で効果的です。
「しつこさ」で定着
言語習得には「量」をこなすことが非常に重要です。同じコンテンツを繰り返し音読したり、単語やフレーズを何度も練習したりすることで、知識が長期記憶に定着し、自然と使えるようになります。毎日少しずつでも英語に触れる習慣をつけ、楽しみながら「量」を積み重ねていくことが、結局は一番の近道です。
英語学習は、子どもたちの人生において、単なる学力向上に留まらない、より本質的な価値をもたらします。それは、論理的な思考力、多様な意見を尊重し対話するコミュニケーション能力、そして自らの役割を自覚し、献身と奉仕の精神を持って指導力を発揮する資質を養うことに繋がります。
科学的根拠に基づいた効率的な学習法を取り入れつつも、何よりも「英語を学ぶ楽しさ」を子どもたち自身が実感できるような環境を整えることが大切です。英語を通して、子どもたちが世界に対する知的好奇心を高め、自らの可能性を広げていく過程を、ぜひご家庭でサポートしてください。多様な学習方法を柔軟に取り入れ、焦らず、しかし着実に、お子さんと一緒に英語の世界を楽しみながら、未来を切り開く力を育んでいきましょう。
1億人の英語習得法
今回ご紹介した内容について、J PREP代表 斉藤淳が解説した書籍がSBクリエイティブから出版されています。
日本人はなぜ英語ができないのか。それは、「ネイティブが当たり前にやっている英語の学び方」を知らないから。イェール大学元助教授で英語塾を主宰する著者が、日本人の知らない英語習得法を伝授します。
書籍内容
- 受験英語のクセを知る
- 英語と日本語 文字と音の対応関係の違い
- 英単語によって最適な覚え方・教材は異なる
- 試験のための文法と、使うための文法
- 試験対策英語の「構文主義」バイアス
監修:斉藤 淳(さいとう じゅん)
1969年山形県酒田市生まれ。
上智大学外国語学部英語学科卒業(1993年)、イェール大学大学院政治学専攻博士課程修了、Ph.D.取得(2006年)。ウェズリアン大学客員助教授(2006-07年)、フランクリン&マーシャル大学助教授(2007-08年)を経てイェール大学助教授(2008-12年)、高麗大学客員教授(2009-11年)を歴任、2012年4月に帰国、英語塾代表として起業。
2014年に発売された『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』と『10歳から身につく問い、考え、表現する力』がベストセラーとなる。2017年に『世界最高の子ども英語』、2023年に『アメリカの大学生が学んでいる本物の教養』、2024年に『斉藤先生! 小学生からの英語教育、親は一体何をすればよいですか?』を刊行。J PREPでは全体の統括に加え、教材開発、授業、進路指導を担当。
J PREP 斉藤塾では、2025年度 入塾説明会を開催中です。

J PREP 斉藤塾では秋学期(Term C)より ES125 英語初級 半年集中コースを開講いたしました。

J PREP A+では2026年度 入会説明会・体験会を開催いたします。
